雨の前原宿、裏町記

雨の降る日、前原宿を歩く。
観光地ではない、暮らしの匂いが残る町。
しっとりと濡れた木壁や石畳が、
かえって町の奥行きを見せてくれる。
静かな午後、傘をさす手を少し緩めて、
耳をすませば、雨と記憶が話し出す。

赤茶けたトタンが語る、
長い時間を刻んだ通り。
雨に濡れたレンガ道が、
過去と現在を静かにつなぐ。

色あせた看板と赤い庇、
ふと足を止めたくなる佇まい。
傘をさした人がゆっくりと、
この町の記憶を歩いている。

小さなショーケースに並ぶ、
懐かしさを感じる食品サンプル。
「食堂」の金文字が誇らしく、
静かに今日も暖簾を迎えている。

雨に濡れた古い瓦屋根、
「クスリ」の看板が静かに語る歴史。
その隣には腕のモゲたたぬき、
前原宿の素顔がここにある。

長田の青いテントが、
この町の曲がり角の目印。
修理の文字に時間が滲んで、
雨音が優しく窓を叩く。

雨あがりの静かな通りに、
濡れた石畳が光を映す。
並んだシャッターが物語る
かつての賑わいと今の余白。

細い路地の奥に、
かすかな灯りがにじむ午後。
自販機の明かりだけが頼りで、
静かな雨が音を吸い込んでいく。

雨に濡れた白壁が、
しっとりと街に溶け込んで。
古き商家のたたずまいが
前原宿の静けさを物語る。